コラムブログ「だが興味は持て」

毎週土曜日(水曜日)更新

「大衆娯楽」に興味を持て

言葉にならないほど凄いものを体験した時に

だがしかし言葉を扱って記事を書いている以上 言葉にはしなくてはならない

 

出てきた言葉は「凄い」だとか「言葉にならない」だとか

陳腐と呼ぶにもふさわしくないくらい 脳の手前から出てくるものになっている

 

けれどもそれが正直な感想なのである 分析とかは二の次に回すしかない

 

何を観てそう思ったのか 筆者の場合はやはりプロレスであった

9月12日に行われた「タカタイチデスペマニア」という興行のメインイベントである

 

簡単に説明をすると TAKAみちのく選手とタイチ選手による自主興行

その名も「タカタイチマニア」を前身とし そこにエル・デスペラード選手も加わった

 

新日本プロレスでは出来ない刺激的な試合を売りにする人気シリーズである

 

今回の興行には「TAKAみちのく30周年記念大会」という冠が付いており

 

これまでのキャリアを振り返るような試合はもちろん

今のTAKA選手の教え子である若い選手も魅せ場充分に作り上げる 活気のある大会だった

 

しかしながら俄然注目度が高かったのはそのメインイベント

葛西純 VS エル・デスペラード」の試合であった

 

過去にもまだ「タカタイチマニア」の時代に両者は2度ほどぶつかっており

初回は無効試合(デスペ選手は顎骨折の重傷) 2回目はタッグパートナーの敗戦という

 

不透明決着に終止符を打つための 実に足かけ3年にも亘る因縁の一戦なのだ

 

そして万が一 これからPPV等で観られる方が居るとして断っておくが

この試合は反則裁定無し・凶器使用自由といういわゆる「デスマッチ」の試合である

 

ノコギリで額を割いての流血 カミソリボードへの体当たり攻撃

フォークやアルミ缶が背中に突き刺さり……等 心臓が弱い人には到底お勧めできない代物だ

 

しかし プロレスは好きだけれど未だデスマッチを観た事が無い という

あくる日の筆者のような人たちには掛け値無くお勧めをしたい試合なのは間違いない

 

言うまでも無く通常ルールのプロレス以上に痛みの伝わる内容である

筆者もタマを押さえながら 歯を食いしばりながら必死で画面から目を逸らさずにいた

 

(痛いシーンを見るとタマキンを触って生を感じようとするのは単に筆者の手癖である)

 

いやどちらかと言えば 痛みが伝われば伝わるほど目が離せなくなっていくのだ

むしろ即物的な痛みである分 ダイレクトに闘いの苛烈さが伝わってくる

 

イロモノでは決して無い そして最後はプロレスに帰結していく素晴らしい試合だった

 

この試合から遡ること一週間 新日本プロレスで2年半ぶりに声援解禁の大会があった

 

会場に地鳴りのように響く内藤コール オカダコール 棚橋コール etc……

ヒールには容赦なくブーイング等 忘れかけていたプロレスの楽しみ方を取り戻した一日

 

その日の試合後 「世界一性格の悪い男」こと鈴木みのる選手が印象的なコメントを残す

「オレが思う最高のプロレスは大衆娯楽だ」と 一部抜粋ではあるがそういった内容だ

 

言葉としては理解できるが じゃあ大衆娯楽とは一体何なのだろうと筆者は考えていた

 

かつてプロレスが プロ野球が サッカーJリーグが 歌謡曲が 等等

大衆を巻き込む大きな娯楽だった時代 世代的に筆者はそれを情報としてしか知らない

 

エンターテイメントの多様化が進み テレビの視聴率もあまり意味を持たなくなった今

「大衆娯楽」という言葉も死語なのではないかと思っていたが そうは問屋が卸さなかった

 

この日の葛西選手とエル・デスペラード選手の試合は間違いなく大衆娯楽そのものだ

デスマッチだとか因縁だとか 極論を言えばそういうものは関係ない

 

気付けば頭を空っぽにして 目の前で起こる一挙手一投足に夢中になる自分が居た

 

あえて定義を設けるなら きっと大衆娯楽とはそういう事なのだろう

声を出して一体になって夢中になれるプロレスは大衆娯楽たるにふさわしい

 

驚くべきは 会場に居らず配信で観ていてもその感覚になれたという事実だ

それはひとえにこの興行の凄さ 選手の凄さ 試合の凄さが成しえた事ではないかと思う

 

本当に凄いものに対して 筆者には「凄い」と直接表現するしか道を持っていない

 

しかしそれで良いのではないかとも思う それだけ頭を空っぽにして貰えたのだから

 

そしてそんな大衆娯楽に対して 出来る限りに言葉を尽くして思いの丈を述べていく

どこか矛盾を感じながらも 物書きはかようなジレンマと闘っていくしかない

 

「誰かに何かを考えるきっかけに」というのも素晴らしい事だけれど

そうではない娯楽があってもいい という至極当たり前の事に気付かされた出来事だった

 

それは声援を送れるプロレスであり 社会的意義など特に無いバラエティ番組であり

心を揺さぶる音楽であり……言葉を尽くした文章表現なのだと言えるようになりたい