コラムブログ「だが興味は持て」

気が向いたら書く!

「ヴェイパーウェイブ」に興味を持て

物事をジャンル分けする行為は 事象の整理や批評において誠に便利である

 

小さな事ではあるが 部屋の本棚にマンガを収める時であっても

作家別・出版社別 あるいは少年・少女漫画と分けておくのは気持ちが良い

 

その反面 ジャンルが分かれた事で不要なレッテルが貼られたり

「自分には関係の無いもの」と思われ忌諱される恐れもある

 

筆者が幼少のみぎりは 家に「パタリロ!」と「かりあげクン」しかマンガ本が無く

何となく「自分は少年漫画を読んではいけないのではないか」と思っていた

 

「ワンピース」や「スラムダンク」を読み始めたのは中学生になって以降で

特に小学校高学年頃のアニメやマンガ文化がすっぽりと抜け落ちる事態になっている

 

ジャンルを分ける事には功も罪もある事を念頭に入れつつ 今日は音楽の話である

 

読者諸兄は「ヴェイパーウェイブ」という音楽ジャンルをご存じだろうか

2010年頃のインターネットを発祥とする 音楽素材のサンプリングを駆使した音楽の事

 

サンプリング元は多岐に渡るが 主に80~90年代の商業音楽(TV・CM音源など)や

ショッピングモールのBGMや環境音楽 果ては日本のシティポップまで対象となっている

 

これらに共通するのは 社会がまだ未来に希望を持ちユートピア思想に現実味があった頃の

心地よさを重視した理想郷のような音楽 それらを材料としているのである

 

勿論インターネットの深層部分の ひねくれた意地悪な感性から生まれた文化なので

やや冷笑めいた批評性をもってして 素材を切り刻み・加工し・再構築を行っている

 

音楽のみならず アートワークでもヴェイパーウェイブの意匠は特徴的で

 

蛍光ピンクやネオンの風味を多用したカラーテイスト 発展した都市や商業施設の風景

MSゴシック丸出しの雑然とした日本語の羅列をコラージュして作られている

 

そのどれもがやはり80年代的で洗練されきっておらずどこかダサい

しかし不思議な魅力を放っており目を惹かれるものなのだ

 

今ではヴェイパーウェイブの始祖と目されている Vektroid(MACINTOSH PLUS)の

『Floral Shoppe』というアルバムでもその意匠は明らかであり

 

ジャケットにはヘリオス神の石像が浮かぶように配置されており

派手なピンクの地にミント色で「MACプラス」「フローラルの専門店」と書かれている

 

曲名も「リサフランク420/現代のコンピュー」「地理」「数学」「待機」「て」など

誤植なのか狙っているのか あるいはB-DASHなのかという散逸ぶりを見せている

 

これらヴェイパーウェイブを担うアーティストの殆どは外国人であり

日本語や日本文化はノスタルジーを設計する為の材料に過ぎないのがまた特徴的

 

恐らく自国の文化としてそういったものを味わってきた世代には

懐かしさこそあれその手法の異様さから理解が難しいジャンルなのではないかと思う

 

または全くの若い世代 今の10代や20代前半がヴェイパーウェイブに触れて

新鮮味以外の何かを得る事ができるのかどうか 筆者はやや疑問に思っている

 

88年生まれの筆者は 経済成長やバブルをほとんど知らずに生まれ育ち

噂のみ聞く80年代への憧れと懐疑を抱き続けたままミレニアル世代と呼ばれる事になる

 

小学校3年生の時にたまたま見てしまった「タモリ倶楽部」の杉作J太郎

中学時代に触れた「ブラックワイドショー」のローファイな怪しい映像だったり

 

そんな原体験を 知らない誰かが「ヴェイパーウェイブ」としてまとめてくれていた

有難い事であるし 筆者がこのジャンルにハマりつつあるのも納得して頂けると思う

 

ただしヴェイパーウェイブが初期に持っていた批評性や批判性は次第に薄れ

大衆文化として定着しつつある という意見も良く目にするので

 

ジャンル分けはともかくそれに世代差を付けて語るのもナンセンスなのかもしれない

 

とにかく今日も 蒸気が生み出した夢想のみで実現されなかった未来に浸り

ピッチを落としたシンセサウンドに脳を半身浴させる そんな体験を続けている

 

疲れているのか?と思われそうだが 筆者は生まれてこの方疲れた事しかない

言わば逆棚橋人生を送っているので 心配はご無用である